アンブレイカブル
気付いた時、あなたはもうここにいた。
午後一時のホームで、黄色の直ぐそばに。
あなたは、次の電車を待っている。きっぷは既にポケットの中に入っていて、しかしそこに書いたものはあなたの目的地ではない。
向こうはどんな場所なのだろう。もしかしたら、こちらと変わらずに、お天道様が照らしているのかもしれない。ビルの隙間に、天井の硝子に、錆びた空気に。ひょっとしたら、その光の色も全く同じかも。少し不気味な、すごく不自然な青い光。
ここは、逃れようとも逃れられない場所。あなたの旅立ちは、まさしくマイルストーンだ。その小さな紙切れを手に入れた時点で、定めはもう決まっていた。乗る列車ももちろん、あとは時間を待つだけでいい。
嗚呼、あなたは思い付いた、この旅立ちに名前さえついたことを。
「公海」という名前だった。
ここから出ると、まるで公海にたどり着いたかのように、否、それ以上の自由を得られるはずだ。でもどうして、あなたは動揺しているんだ。いつもの午後なのに、変わらない鉄臭い風なのに、同じく、まるで嘲笑っているような青い光なのに。
怖がっているのだろうか、そうでもなさそうだ。だって、瞳の奥に刻まれた景色は、誰でもすぐに慣れる日常風景ではないか。しかしなぜ、体が震えているせいか、あなたの視界には、そのありふれた黄色も揺れ始めた。
前にこんなふうに感じたのは、確か十数年前のことだ。そのずっと好きだった栗色の髪に、本音を告げようとする時、大花火が横槍を入れた。花火はあまりにも綺麗すぎて、まぶたを閉じても、黒いキャンバスに点々と咲いた。
今でも好きというなら、そんなわけもない。時間に負けたからじゃない、そのままでは進めないからだ。
そう、あなたは進まなければならないんだ。例え何もかもが戻れなくなるとしても。
この町の毎日は、今日からバイバイだ。あなたはポケットからきっぷを出して、濡れた紙の上には、やはり意味あるものはナニも書いていない。
その時あなたに聞こえた、待ち遠しい列車の音。いつものように、鉄臭くて、青い光と生暖かい空気と共にやってきた、その音だ。
スカートがふわりと通りすがって、泣き声も付いて行った。杖が二つ並び、紺色の波を必死に避けた。背広たちが急いで、ハイヒールの傍を走り抜けた。青い光はそのすべてを照らした、まるで幼子の背を撫でる母のよう。そう、あなた以外の、尊い命を。
お時間だ、合掌も、舌打ちも、生きている者たちに任せよう。なにせ、終わりは始まりであり、止まることは進むことだ。
紙切れはそうして飛び上がって、蛹から出てきたばかりの、黒い蝶の羽に見えた。
18.05.25 by RemoN
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